マルタはゲーミング業界によって支えられている国。多くの日本人もこの地で就労しており、あなたが普段よく使っているオンラインカジノ、ブックメーカーもここで働く方々の努力によって運営されています。
この記事では、そんなマルタのゲーミング業界で働く大勢の日本人のリアルに迫ります。この業界で働いてみたい方、この業界内でステップアップしたい方、業界の働き方に興味がある方に向けて、オンラインカジノ、ブックメーカーの業界構造、職種、階層を解説しました。
私は主にスポーツに強いブックメーカー関係者と交流することが多いですが、採用募集をしても業界構造や各職種の役割を全く理解せずに応募してくる志望者が非常に多く苦労すると聞いていたため、業界内の構造をまとめてみようと思ったのがこの記事の発端です。
私はオペレーターではないアフィリエイトの立場ですが、業界内外の方でも理解しやすいよう各職種の役割や名称を解説し、マルタ国内での就労のイメージが具体的に膨らむように記事を制作しました。
オンラインカジノやブックメーカーで普段プレイされている方の読み物としてはもちろん、この記事が業界内のキャリア形成を目指す方のお役に立てれば幸いです。
マルタ国内のゲーミング業界の構造と職種階層
あくまでマルタ国内の日本人の就労先という括りに限定されますが、マルタにおけるiGaming(アイ・ゲーミング)業界の主要3業種がこちらです。
- オペレーター(オンラインカジノ、ブックメーカー)
- アフィリエイト会社
- ゲームプロバイダー(主にEvolutionのディーラー)
マルタはオンラインカジノ関連の就労者が非常に多く、スポーツ系ブックメーカーの方はロンドン拠点の方々ばかりです。またペイメント系企業はマルタではなくアジアに拠点がある会社さんが多いので、決済関係の会社で働いている日本人もマルタには少ないです。
この主要3業態をベースに、各企業の職種がざっくり4階層で職種が形成されています(階層は私の独断と偏見です)。クリックで拡大できます。
- トップレイヤー
カントリーマネージャー(オペレーター)、アカウントマネージャー(アフィリエイト会社) - セカンドレイヤー
アフィリエイトマネージャー、マネーロンダリング防止関連部署、VIPマネージャー(オペレーター)、コンテンツマネージャー(アフィリエイト会社) - サードレイヤー
コンテンツライター(オペレーター、アフィリエイト会社)、KYC不正チェック(オペレーター) - ボトムレイヤー
ディーラー(ゲームプロバイダー)、カスタマーサポート(オペレーター)
レイヤーの名称は私が勝手につけたものです。あくまでマルタにいる日本人が就くことが多い職種を私が勝手に階層化したものなので、業界公式のものではありません。
また会社によって組織規模、組織構造が違い、オペレーターでもスポーツ系ブランドとカジノ系ブランドで職種や昇進ルートが微妙に違う点にも注意が必要です。
前提としては、マルタでは留学生上がりでボトムレイヤーからキャリアをスタートさせることが多く、ロンドン拠点のスポーツブランドでは現地大学を卒業してサードレイヤーからキャリアスタートする方が多い印象です。
そういった違いの前提も踏まえつつ、各階層の職種を細かく解説していきます。
ボトムレイヤー
マルタにいる多くの日本人が働いているのが、ゲームプロバイダーのEvolution(エボリューション)で働くディーラーです。24時間を3交代で回し、ひたすたトランプを配り続ける肉体労働者。
何のスキルもつかない単純作業ですが、会社が簡単に就労ビザを発行してもらえる上、日本人であれば額面給与2,500ユーロ/手取り1,800~2,000ユーロ(家賃が500ユーロぐらい)と、そこそこ貰えて残業なし&有給も多く取れる環境を活かし、旅行を中心にプライベートも充実させたい留学生上がりの若い人が多く働いています(※)。
※追加注釈
ただ長期で働く職種ではなので、1~2年働いたら次の職種にチャレンジするか、もしくは別業種や別の国にステップアップするかで「脱出」を目指す人がほとんど。
オペレーターのカスタマーサポート(CS)はオンラインチャットなどで顧客の対応を行う職種のこと。マルタ国内でのCSはほぼほぼオンラインカジノ所属です。マルタでのCS職はそこまでの高いスキルと英語力が求められないため、完全未経験であっても「日本人である」というだけで採用されやすい側面が強いです。
逆にスポーツ系ブックメーカーのCSはフィリピンなどの別地域にあるか、もしくはbet365のように英国内で就労させるケースが多いため、マルタ国内でスポーツブランドのCSに就いてる日本人はあまり見かけません。
いずれにせよ、マルタの語学学校を卒業後、CSやディーラーとったボトムレイヤーからゲーミング業界のキャリアをスタートさせ、ディーラーからオペレーターのCSに転身していくパターンが多いのがボトムレイヤーの特徴です。
サードレイヤー
CSで経験を積んだ後に就くのがこれらの職種です。ディーラーから次のステップアップ転職としてオペレーターやアフィリエイトのコンテンツに就くパターン、あるいはロンドン拠点のスポーツブランドであれば、ここがキャリアスタートになるケースもあります。
アフィリエイト会社のコンテンツライターは、いわゆる記事を書く人のこと。自分でコンテンツを執筆したり、外注を使って求められるコンテンツを作り込んでいき、新規獲得数を増やすために実際に手を動かして作業を行います。
オペレーターではCSから仕事を始めて、そこで適正を見てマーケティング系か、レギュレーション系の職種に配属されます。マーケティング系ならまずコンテンツに配属され、顧客向けのメルマガやサイト内コンテンツ、キャンペーンオッズの企画、バナー更新、翻訳などを行います。
ただ必ずコンテンツを経由する訳ではなく、CSからいきなりアフィリエイト関連の部署に配属されて先輩のサポートに入ることもあれば、コンテンツで経験を積んで既存顧客向けのマーケティング(CRM)要素が強い高難度な分野を担当することもあります。日本チームは小規模なので専任を置くケースは少ないですが、オールスターチームだとマーケティング、CRMの担当者もサード~セカンドレイヤーに配置されます。
レギュレーション系の方に配属されると、KYC審査や不正防止チェックといった守りの仕事を担当。ここで経験を積んでからアフィリエイトチームに移る人もあれば、あるいはレギュレーション系のさらに上流の職種に昇進していく人もいますね。
セカンドレイヤー
オペレーター内ではマーケティング系だとアフィリエイトマネージャーに、レギュレーション系だとマネロン防止、責任あるギャンブリングといったライセンス関係の職種にそれぞれ昇進します。
アフィリエイトマネージャーはアフィリエイター経由の数字成績を管理する職種です。オペレーターの窓口となって、アフィリエイターとの折衝、条件交渉、新規掲載先の発掘、露出強化、媒体ごとのユーザーバリュー分析、広告予算の管理を行います。
アフィリエイターはSEO系、SNS系、配信者系の3パターンに分かれますので、各オペレーター内で設定されたKPI(アクティブユーザー数、ブランド認知、売上、新規入金数)に則って、アフィマネがどの掲載先を優先して予算配分と施策を打つかを決めていきます。
スポーツブランドは媒体ごとの数字分析やブランド調査を入念に行い、いい意味で財布の紐が硬い会社さんが多いですが、新興のオンラインカジノはどんぶり勘定のところも多いです。中にはマーケティングの基礎知識すらない人がいきなり抜擢されて、上から飛んでくる一貫性のない指示に右往左往してしまう不幸なケースも。
アフィリエイトも立派なウェブマーケティングなので、せめて基礎的なマーケティング知識がなければ、この職種は務まりません。またカジノ分野は癖のある配信者やアフィリエイターも多いので、そういった人を上手く手懐けてやり抜く対応力も必要でしょう。
アフィリエイト以外にもVIPマネージャー(VIP顧客向けの特別対応窓口、限定キャンペーンの企画、サポート)もこのレイヤーに入ります。(極一部、数字責任を追う特殊なVIPマネージャーの職種、海外招待の同行などはトッププレイヤーっぽい動きになることも)
海外のアフィリエイト会社に行くと、各サイトの運用責任者であるコンテンツマネージャーという職種があります。これは各サイトの運用責任者で、ライターやイラストレーター、SEO担当、外注先などを束ねてマネジメントし、数字目標を追うのが役割です。いわゆるサイトの編集長ポジション。
個人的な主観ですが、このレイヤーは実力者とそうでない人の差が非常に激しく、まさに玉石混交といった印象があります。もちろん有名ブランドの方の方が実力者が多く、新興ブランドのようなところほどエラーが起きやすいイメージです。
ちなみにSiGMAやICE、iGBなどの業界カンファレンスに参加してくるのもこのレイヤーから。
トッププレイヤー
カントリーマネージャーはオンラインカジノ、ブックメーカー企業の職種で、特定地域(大抵は日本マーケット)の責任者として売上、利益などの数字責任を負う中間管理職です。
オペレーターによって責任範囲は異なるものの、売上、利益、新規入金数、登録者数の管理や予測、広告予算の分配、広告媒体の選定、SEO、決済業者の選定・折衝、サイト構築、重要アフィリエイトへの対応、VIP対応、上層部への報告といった多岐にわたる様々な業務をこのカンマネが担います。
カントリーマネージャーは数字責任を強く負う職種なので、マーケティングの深い知見はもちろん、上層部との調整力、アフィリエイトや関連業者といった外部関係者とも上手く対応できるコミュニケーション能力、生来の社交性の高さ、面倒見のよさが必要です。もちろんこの業務を遂行できる高い英語力があることが大前提。
ちなみにカントリーマネージャーが不在の場合、アフィリエイトマネージャーが実質的なトッププレイヤーとなることもありますし、VIPマネージャーが不在の場合はW杯やEURO、F1、欧州サッカーの観戦旅行の招待、アテンド、現地同行をカンマネが兼任するケースもよく見ます。
アフィリエイト会社ではアカウントマネージャーといって、広告主各社との折衝、サイト内での露出強化の提案といったビジネス面の条件交渉を主に行う職種があります。海外のアフィリエイト会社は社内に複数のサイトを同時運営しているので、各社との交渉窓口を一手に引き受けるのがこの職種です。
日本のアフィリエイトはコンテンツ制作から交渉まで全部1人でやる方が多いですが、海外では細かく職種が別れてチームで運営されています(アカウントマネージャーとコンテンツマネージャーを分けるほど業務量があるの謎ですが)。
トップレイヤーの次
オペレーター、アフィリエイト会社ともにトップレイヤーの上はもう役員クラスしかいないので、そのポストには欧米人が就くことがほとんど。ここに日本人が就くケースはあんまりないんじゃないかな。
トッププレイヤーまで上り詰めると、
- よりよいブランドを求めてオペレーター間で転職する
- アフィリエイト会社など業界内の関連会社を立ち上げる
- 独立して複数の会社の任務を兼任しつつ、人脈と経験を活かして紹介業やコンサルを提供する
っていう方が多いかな~。このレベルに来れる人は業界経験が長い重鎮ばかりなので、少なくとも業界10年戦士とかじゃないと辿り着けないはず。
この業界で働く日本人に限って見ると、まず日本市場の黎明期のレジェンド世代がいて、その次の世代がこの「トッププレイヤーの次」に差し掛かってきたタイミングだと思います。ちなみにこのクラスになると、マルタ以外の地域で活動されてる方ばかりです。
転職パターンは主に3つ
日本人に限った話だと、オペレーター、ゲームプロバイダー(ディーラー)、アフィリエイト会社という3業態の中で人材が流動するのですが、人材の流れ方(転職)にもパターンがあります。それがこれ。
- ディーラー→オペレーター or アフィリエイト会社
- オペレーター→オペレーター
- オペレーター→アフィリエイト会社
業界構造的にディーラーはボトム層にいるので、ここから別の会社に行くことはあっても、業界内の別の会社からディーラーに来ることは基本ありません。
またオペレーター→アフィリエイトへの転職・転身はあっても、その逆は少ない。オペレーター出身の人がアフィリエイトに行ったりオペレーターに出戻ることはあっても、アフィリエイト出身の人がオペレーターに行くことって(一応あるにはあるんですけど、圧倒的に)少ないのが業界の特徴だと思います。
もしマルタ国内でステップアップの転職を考えるなら、こういった人材の流れ方の基本を抑えつつ、オペレーターに行くのか、アフィリエイトに行くのか、どういったキャリアを作っていくかをイメージしてきましょう。
スポーツブランドに転職するならロンドン拠点がオススメ
オンラインカジノの職種であればマルタ就労でいいのですが、スポーツブランドで仕事をしたいのであれば絶対にロンドン拠点で業界に入り込む方がいいと思います。
マルタスタートからスポーツブランドに行った人ってほぼ聞いたことがないですし、実際「マルタのオンカジ(特にCS)→ロンドンのスポーツ」への転職って相当ハードル高いです。
マルタでは何となくディーラーやCSやってる人が多いので、そもそも業界構造やアフィリエイトの仕組みを理解しておらず、いざロンドン拠点のスポーツブランドの採用募集に応募したところで、箸にも棒にもかからないケースがほとんど。
スキルや実力的な側面は当然ながら、イギリスの就労ビザの取得難易度がマルタより遥かに高いから、余計にハードルが高くなっちゃう。イギリスの就労ビザは会社が取得費用を負担するため、その費用を負担してまでその人材を雇う必要があるか?が採用のポイントになるので、このハードルを超えるのは至難の業。
ちなみにbet365はマルタにもオフィスがありますが、英国で就労しているCSやコンテンツの人材レベルは驚くほど高いです。以前ブクサカのインタビューに答えてくれた元bet365勤務の日本人もめちゃくちゃ優秀な方で、現在は別の会社でスポーツマーケティングの最前線で活躍しています。
スポーツ系オペレーターに進みたいのであれば、マルタ移住は悪手。まずはイギリスで英語力やビジネス基礎力を鍛えて、スポーツマーケティングをベースに業界に入り込むのが王道ではないでしょうか。
マルタの雰囲気、国の様子
続いて、マルタ国内で働く様子をお伝えしたいと思います。
まず、マルタはイギリス人のリゾート地です。夏は屋外に出れないぐらいの暑いそうですが、海がキレイでお金持ちが多いので、ハイシーズンの夏は欧米人でごった返し、お酒、クラブ、船、海で遊びまくる楽しい場所。
日本でいう沖縄や宮古島、石垣島とよく似てます。時間がゆっくり流れていて、油断すると堕落したり沈没してしまいそうになる。何せ禁煙6年半の私ですら「なんかタバコ吸いたいなぁ…」と思わせるぐらい堕落的な雰囲気です。ここで仕事をするのは自分を律する厳しい心が必要。
私もマルタ滞在中に色んな場に顔を出して、色んな方とご挨拶しましたが、最初はとにかく雰囲気の緩さに戸惑いました。
月曜15時からキレイな海の見えるオフィスバルコニーに集まって飲み会してたり、国全体がパリピ(パーティ・ピープル)っぽい感じだったり、ビジネス目的で「戦いにいくぞ!」というテンションだとバカンス的な雰囲気に肩透かしを喰らいます。
旅行好きの留学女子が多いマルタ
留学費用が安いということもあって、マルタは英語留学でも人気です。語学学校で英語を学び、そのままマルタに残るためにCSにやディーラー職に最初に就いて、休日を使ってプライベートを充実させるっていうのが、マルタにいる典型的な日本人像。
円安の影響もあって物価はそこそこ高いですが、ヨーロッパ各国へは格安(2~3万円ぐらいから)航空券を取れるので、マルタ拠点でイギリス、フランス、ドイツ、スペインなどの欧州旅行を楽しむのに都合がいいようです。
もちろんマルタにもビジネスの最前線で戦っている方が大勢いますが、ボトム~サードレイヤーにいる大多数の日本人は「プライベート充実派」で、仕事能力が高い人はやっぱりトッププレイヤーに集中してます。
どっちが良いとか悪いとかではないので、あくまで自分のライフスタイルに合わせた職種選択ができる、というのがマルタのいいところかな。
移動手段の少なさ、日常の娯楽の少なさがデメリット
マルタはこの国が大好きになる人と、大嫌いになる人と両極端です。旅行で行くのはいいけど、住むのは勘弁って人もかなりいます。
公共交通機関はバスかタクシーだけで、電車はありません。バスも時間通りに来ないので、移動手段の不便さがとにかく不評。しかも車やバスの運転はかなり荒く、坂道やクネクネ道が多いため、車酔いする人は相当キツイと思います。
あとマルタ国内は娯楽が少ないので、東京のような都会育ちの人からすると「休日の選択肢の少なさ」にうんざりして、他の国に出て行ってしまった方もいるし、マルタ特有のパリピっぽい雰囲気が好きになれない人とかもよくいますね。。
あと食事がイマイチなので、食のこだわりが強い人もキツイ。一応食べれるけど、美味しくはないんですよねぇ。ちゃんとしたイタリア料理とかマグロとかは美味しいらしいですが、もちろん物価も高いので、現地に住んでる人は結局自炊するのが一番いいんだとか。
逆に日本のようにセカセカせず、大好きな英語を学びながら、旅行を楽しみながら、ほどよく仕事をする、そして夏は海で思いっきり遊ぶ!というライフスタイルを気に入る人も大勢いますので、自分がどっちのタイプかによって、マルタが好きになるかどうかが分かれるでしょうね。
これがマルタのゲーミング業界のリアル
この業界で働く日本人の職種階層、業界構造に絞ったお話でしたが、普段あなたが使っているオンラインカジノ、ブックメーカーの運営が、どこで、どんな人によって、どんな風に運営されていうのかイメージが付いたでしょうか?
また現地で就労を目指していたり、業界内でのステップアップを目指す人にとって、自分が所属する業界の構造、職種の階層をより高い解像度で理解してくれれば凄く嬉しいです。
せっかくステップアップを目指して採用応募をしても、スタートのところで躓いてしまうケースが多いと聞いているので、当記事が色んな方のキャリアアップの役に立ってくれればと願っています。