2023-24シーズンのUEFAチャンピオンズリーグもいよいよ、レアル・マドリードとドルトムントが対戦する決勝戦を残すのみとなりました。ファイナルに残った2チームがぶつかる試合はどんなものになるのか。サッカージャーナリストの小澤一郎氏に展望してもらいました。
海外ブックメーカー発表/UEFAチャンピオンズリーグ決勝優勝オッズ
決勝直前の優勝オッズはこちらです。
レアル・マドリード | 1.30倍 |
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ドルトムント | 3.40倍 |
※オッズは2024年5月29日時点のWilliamHill公式サイト(UEFAチャンピオンズリーグ 2023/24 – 優勝)から引用
決勝展望 下馬評は世界中で「レアル・マドリード有利」だが?
いよいよ欧州サッカー2023-24シーズンの閉幕を意味するUEFAチャンピオンズリーグ決勝が今週末に迫ってきました。ファイナリストに残ったのはドルトムントとレアル・マドリードの2チームです。
両チームの過去の対戦成績はドルトムントから見て3勝5分6敗とレアル・マドリードがやや優勢。ロンドン、ウェンブリー・スタジアムでの一発勝負だけに有利、不利の下馬評は関係ないも同然ながら、やはり世界中のサッカーファンが「レアル・マドリード有利」の決勝とみなしています。
実際、シーズンを通した勝ち上がり、安定感もレアル・マドリードに軍配が上がります。23-24のラ・リーガを29勝8分1敗という圧倒的強さと安定感で制覇したレアル・マドリードは、これでラ・リーガの優勝タイトルを36にまで伸ばしました。
対するドルトムントは戦前の予想を覆してアトレティコ・デ・マドリード、PSGという強豪を撃破してこのCL決勝までたどり着いているものの、ブンデスリーガでは18勝9分7敗で5位フィニッシュと、クラブの予算規模やチームの戦力を考えると物足りない「低迷」とも呼べる国内リーグの成績です。
タレント力ではレアル・マドリード
まずはこの大一番に向けた両チームのスタメン予想と戦力比較から見ていきましょう。先発については両チーム、すでに議論するポジションがないほどに固まっています。
まずはホーム扱いのドルトムントでは、GKコーベル、DFラインは右からリエルソン、フンメルス、シュロッターベック、マートセンの4バック。
アンカーにエムレ・ジャンが入り、インサイドハーフにザビッツァーとJ.ブラントの二人。
前線は右からサンチョ、ヒュルクルク、アデイェミの3トップとなる4-3-3ベース(守備時4-1-4-1)のシステムです。
レアル・マドリードもGKは開幕前の大怪我からクルトワが戻り、シーズンを通して見事な活躍を見せたルニンとのGK論争に決着をつけました。
DFラインは右からカルバハル、リュディガー、ナチョ、F.メンディの4バック。中盤はダブルボランチにカマヴィンガとクロース、右にバルベルデ、左にベリンガム。2トップにロドリゴとヴィニシウスという4-4-2のシステムです。
CL決勝に残るチームゆえに戦力的に大きな格差はありませんが、やはり前線のタレントと決定力ではレアル・マドリードに分があるのは間違いありません。特に、今季のヴィニシウスの突破力と決定力は「世界一のアタッカー」の称号を与えてもおかしくないほどのレベルに上がっています。
どちらがどう動くか サイドの攻防
今季のヴィニシウスは、アンチェロッティ監督が用いる4-4-2の2トップシステムの一角に入ることが多いため、昨季までの左ウインガーではなく、特に守備から攻撃のネガティブ・トランジションにおいて相手右CBと対峙するカウンター要因FWとして配置されています。
CL準決勝第1戦でバイエルンのDFキム・ミンジェを完全に凌駕したように、この決勝でもマッチアップすることになるフンメルスの背後のスペースを果敢にアタックするヴィニシウス・カウンターがレアル・マドリードからすると最大の攻撃ポイントであり、この決勝全体で見た時には戦術的キーポジションとなるでしょう。
展開予想としてはおそらく、ドルトムントがレアル・マドリードをリスペクトしてミドルサードで守備ブロックを敷き、マドリーにボールを持たせる序盤となるでしょう。
サンチョ、アデイェミの高強度アタッカーを保有するドルトムントゆえにハイプレスを仕掛けることも可能ではありますが、マドリーのクロースを駆使したプレス回避を警戒してテルジッチ監督は慎重に試合に入ると予想します。
その意味で、マドリー相手に同国のバイエルンが準決勝第2戦で守備からしたたかに戦った展開は、ドルトムントにアイディアと勇気を与えることになるでしょう。
トランジションで猛威を振るうヴィニシウス、ロドリゴ、ベリンガムのアタッカーのスピードとスペースをコントロールして、試合のリズム、テンポを落とした展開に序盤からドルトムントが持ち込むことができれば、そこから逆にカウンターでチャンスを作ることもできるでしょう。
レアル・マドリードのカルバハル、F.メンディの両サイドバックも攻撃時、相手陣内に押し込む展開の時にはポジションを上げて攻撃参加するため、ドルトムントとしてはボールを奪ってから素早く彼らが上がった背後のサイドのスペースを突いてカウンターを仕掛けたいところ。よって、ドルトムント側からするとサンチョとアデイェミが守備でも攻撃でもキーマンとなるでしょう。
準決勝PSGとの2試合で彼らは守備で相当なハードワークをこなしながらも、攻撃では果敢に前に出ていきカウンターでチャンスメイクをしました。
普段はサンチョとアデイェミはポジションチェンジを頻繁に繰り返すことになりますが、レアル・マドリードのカルバハルの攻撃参加を考えると右にサンチョ、左にアデイェミの配置は固定されることになりそうです。
注目されるクロースの配球
ドルトムントのペースダウンを望む守備的な序盤の入りを予想すれば、レアル・マドリード側の鍵を握るのは間違いなくトニ・クロースの配球です。
すでに今季限りでの現役引退を発表し、このCL決勝でレアル・マドリードの選手としてはラストゲームになるクロースながら、保持局面での配給の質の高さはいまだ世界最高レベル。このままCL優勝、そしてドイツ代表の主力としてEURO2024でも活躍すれば「バロンドール」受賞の声もさらに高まるでしょう。
そのクロースがDFラインに落ちて3枚ビルドアップをする際、ドルトムントがどの程度クロースに制限をかけるのかが、序盤の攻防を見る上でのキーポイントにもなりそうです。
今季ここまでのCLでのドルトムントの守備設定を見る限り、サンチョ、アデイェミのサイドハーフは相手SBをマンツーマンでつかまえるタスクとなっているため、クロースがDFラインから配給する時にはザビッツァーがヒュルクルクの横までポジションを上げて制限をかけることになるでしょう。
レアル・マドリードは意図的に左サイドに人を寄せてオーバーロード戦術を採るチームで、クロースがボールを持った時にはフラフラとロドリゴも左に流れてきます。
それゆえに、ザビッツァーがプレスに出た背後のハーフスペースをレアル・マドリードがベリンガムやヴィニシウス、ロドリゴを活用して生かすことができるのか、それともドルトムントがフンメルスを中心に上手く処理できるのか、その局地戦での攻防に注目です。
守備的な入りを予想するドルトムントではありますが、シーズン終盤でのヒュルクルクのポストプレーや決定力はこのレアル・マドリード相手でも十分通用するでしょう。
したがって、ヒュルクルクが起点を作ってからのカウンターも間違いなく通用するだろうし、序盤からチャンス、決定機も作るはず。そこで先制点を奪うことができるのか、それともクルトワに阻まれてしまうのかも勝負を分けるポイントになってきます。
ドルトムントのカウンターが鋭い要因の一つが、ザビッツァー、J.ブラントの内側からの後方支援です。
ヒュルクルクでボールを収め、サンチョ、アデイェミのサイドに展開してから最終的には中盤インサイドハーフの二人が相手ボックス内に侵入してフィニッシュワークに絡むスピードも厚みもあるカウンターは、レアル・マドリードの圧倒的個に依存したカウンターとは一味違う怖さと決定力を兼ね備えています。
両チームにとって特別な意味も持つ決勝 必ずしもレアル有利ではない
最後に精神面からの展開予想もしておきましょう。
両チーム共に、この試合を最後にチームを退団するロイス、引退するクロースという精神的支柱を持っています。「彼のためにビッグイヤーを」という大義名分が両チーム共にあるのは珍しい決勝と言っていいでしょう。
そして、中立地ロンドンのウェンブリー・スタジアムとはいえ、声援の面で圧倒的ボリュームを出せるのは黄色いドルトムントのサポーターです。
戦力や経験値では見劣りするドルトムントではありますが、サポーターの声援と黄色に染まるゴール裏を心の拠り所に序盤から上手くレアル・マドリードの攻撃とスピードを吸収してカウンターで先制する展開に持ち込むことができれば十分勝機はあるでしょう。
戦前の下馬評、オッズでは間違いなくレアル・マドリード有利となっているはずですが、あえて本稿では「一発勝負の決勝ゆえにわからない」「有利、不利はない」と締めくくっておきましょう。
手に汗握る欧州最高レベルのサッカーと23-24シーズンの締めくくりファイナルのキックオフは間もなくです。