カタールワールドカップの決勝は、日本時間12月18日(月)0:00(日曜24:00)キックオフとなるアルゼンチン対フランスの一戦となりました。今大会最後となるこの大一番に向けて、サッカーライターの清水英斗さんに展望をお願いしました。
オッズでは互角。メッシが悲願の戴冠か、フランスの連覇か
決勝のカードはアルゼンチン対フランスに決まりました。35歳のメッシが最後にして初のワールドカップトロフィーを掲げるのか?それとも、フランスが60年ぶりの連覇を成し遂げるのか?
W杯の連覇自体は1934年・1938年のイタリアと、1958年・1962年のブラジルに続く史上3ヶ国目ですが、当時の記憶が残る人は少ないはず。どちらが勝っても、歴史的瞬間になるのは間違いありません。
イギリス大手ブックメーカー、WilliamHill(ウィリアムヒル)社が発表している優勝オッズと決勝の試合オッズでは、同オッズで互角に見られています。準決勝終了時点のオッズではわずかにフランス優勢でしたが、体調不良選手が出ている情報もあってか、オッズ差がなくなっています。
- 12/18時点の優勝オッズ
アルゼンチン:1.91倍/フランス1.91倍
- 90分での結果オッズ
アルゼンチン:2.70倍/引き分け3.00倍/フランス2.80倍
- 90分引き分け以降のオッズ
アルゼンチン:1.91倍/フランス1.91倍
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両エースの圧倒的な個を活かし、流動性も持ち合わせた両チーム
アルゼンチンとフランスは、ある意味では似た者同士です。
どちらもメッシ、エムバペという圧倒的な個の力を軸にしたチームであり、そのエースは守備をしません。それは一概にネガティブとは言い切れず、守備フェーズで相手に付かないからこそ、ボールを奪った瞬間に浮いたポジションに残りやすく、攻撃の起点になってくれる。カウンター時には特に大きな力を発揮します。エースが守備をしないのは、チーム戦術に組み込まれた”意図的なさぼり”と言えます。
4バックと3-1−4-2を使い分けるアルゼンチン
また、どちらのチームも守備面で相手にアジャストする柔軟性を持っています。アルゼンチンは基本的に4バックを敷くチームですが、準々決勝のオランダ戦は3-1-4-2で、相手の形にマッチアップする布陣に変更しました。
ラウンド16のオーストラリア戦、準決勝のクロアチア戦も、リードした後半に3-1-4-2を使っています。相手の形やスコアに応じ、柔軟に戦えるのはアルゼンチンの強みです。
中盤のスペースを柔軟にカバーするフランス
フランスも同様です。4バックこそ変更はありませんが、モロッコ戦の後半はマルクス・テュラムを左サイドに投入し、エムバペを1トップへ移すことで、モロッコの苛烈なサイド攻撃に対応しました。
フランスはMFの対応力が大きなピースになっており、エムバペが守備をしないために空く中盤のスペースも、グリーズマンやラビオ、フォファナ、チュアメニらが気を利かせてカバーします。最後は対人で勝てる圧倒的な自信をもとに、人の配置によって柔軟性を発揮してきました。
相手を見ながらどう動くのか。『ツークツヴァンク』の展開も
アルゼンチンもフランスも、対戦相手にとっては非常にやりにくいチームです。メッシやエムバペが守備をしないので、ビルドアップに使うスペースは見つけやすいのですが、そこへ深入りすると、カウンターで彼らに蹂躙されてしまう。まるで罠です。その空いているように見えるスペースは、地獄へと誘う甘い香りの罠…。ボールを持ったチームが陥る、甘い罠…。
チェスの世界には『ツークツヴァンク』という言葉があります。自分の手番になったとき、差し当たって有効な手段が何もなく、どの駒を動かしてもバランスが崩れてしまう。自ら状況を悪化させる手を指さざるを得ない。そういった、「動きたくないけど動かざるを得ない状況」のことを『ツークツヴァンク』と呼び、将棋やオセロにも同様の概念があります。
サッカーで言えば、「ボールを持たされる」がそれにあたるかもしれません。甘い罠であるのはわかっているので、出来ればボールを持ちたくない。受ける側に回りたい。でも、サッカー選手が何のプレッシャーもかかっていないボールを捨てるわけにはいかない。さあ、どうしよう。
動きたい。だけど、動けない。決勝はそんな硬い展開になるかもしれません。
サッカー版『ツークツヴァンク』。つまり、お互いにボールを持たされる。それを避けるには、いかにバランスを崩さず、相手エースにスペースを与えず、ボールを持てるかが鍵を握ります。
フランス対策でアルゼンチンは再び3バックも?
アルゼンチンは3バックの採用があり得ると思います。
準決勝でフランスと戦ったモロッコは、怪我人の状況も影響し、普段の4-1-4-1とは異なる、5-4-1(攻撃時3-2-4-1)で試合に入りました。
そのチャレンジ自体は失敗しましたが、試合後にレグラギ監督は「選手全員が万全の状態であれば、5バックで相手にもっと大きな問題を与えることができた」と、対フランスにおける戦術的な狙いの妥当性を語っています。
守備時は5バックで両サイドのエムバペとデンベレのスペースを埋め、攻撃時はセンターバック3枚がエムバペとデンベレを釘付けにする。そうやって攻守両面でフランスに問題を与え、バランスを保ちながら攻めることを考えていたそうです。
4バックのままでは、サイドバックがエムバペやデンベレを気にして攻め上がりづらいので、形を変えたほうが良いと。モロッコだけでなく、準々決勝でフランスと対戦したイングランドも、攻撃時は3バックに変形し、似た狙いを持っていました。
アルゼンチンは3バック運用に慣れているので、フランス戦で使ってくる可能性は充分あると思います。
フランスはアルゼンチン対策よりもグリーズマンの働きが重要に
一方、フランスはどう考えるか。
まさかのメッシへの”便所マーク”(絶対にマークを離さず、トイレまで付いて行け!)を敢行し、チュアメニあたりが攻撃時からメッシを管理していくか。その分、他のビルドアップやカバーのタスクでは「お願いグリーズマン!」の割合が増しそうですが。
もっとも、フランスは圧倒的なデュエル(1対1)の自信を持っているので、最終的にはスルーパスもドリブルもやるならやれよ、スペースを突かれても勝てるからと、リードするまでは普段通りのシンプルな攻撃を繰り出すかもしれません。
グリーズマンは飛び出しの巧さ、クロスの精度の高さなどクオリティーが幅広いので、あまりアルゼンチンに対策しすぎず、彼の自由を残しておきたいところです。
デュエルが流れを左右する
もう一つ。デュエルの勝敗は、この試合では大きな鍵を握るでしょう。
フランスはもちろん強いですが、アルゼンチンも強みはデュエルです。相手に激しく食らいつく、馬力とも言うべき粘りの脚力は、圧巻の一言。インターセプトの読みも鋭く、クロアチア戦でもボール奪取力は際立っていました。
ただし、フランスとグーとグーの殴り合いになるとどうか。より大きなグーで圧倒され、長所を無効化されることは、ある意味では弱点を突かれるよりもタチが悪いです。自信を失い、気持ちが後手に回ってしまうからです。
一方のフランスも、デュエルが強いのは魅力としても、ボックス内での危ういタックルが依然として目立ちます。モロッコ戦でもイングランド戦でも、より多くのPKが相手に与えられる可能性はありました。
アルゼンチンはPKをもらう仕掛け方が巧いですし、うかつにPKを与えれば、メッシは必ず決めてきます。そうした意味も含め、デュエルの勝敗はこの試合の大きな見どころになるでしょう。
ブクサカ編集部注
今大会、フランスはPKを3度相手に与えており、逆にアルゼンチンは4つのPKを獲得しています。WilliamHill社が発表している決勝戦のPK関連のオッズは以下の通り。PKを与えやすいフランス、貰いやすいアルゼンチン。狙い目は「アルゼンチンのPK」か…?
- ペナルティキックが蹴られる:はい(2.50倍)/ いいえ(1.50倍)
- アルゼンチンがPKを蹴る(4.20倍)
- アルゼンチンがPKで得点(5.50倍)
- アルゼンチンがPKをミス(15.00倍)
- フランスがPKを蹴る(4.20倍)
- フランスがPKで得点(5.50倍)
- フランスがPKをミス(15.00倍)
決勝戦は撃ち合いになるか、はたまた硬い展開か
また、「硬い試合になるかもしれない」とは言いましたが、スコアが動けば話は別です。
一方のチームが相手エースにスペースを与えることを覚悟し、アグレッシブな攻守に転じれば、そこからは2018年W杯のグループステージで対戦した際の3−4(フランス勝利)のように、一気にシーソーゲームになるかもしれません。ただし、決勝とは緊張感が違うので、そこを加味すると、やはり硬いままでギリギリまで推移するのかもしれませんが。
ブクサカ編集部注
過去の対戦成績はアルゼンチンの6勝3分3敗。ワールドカップに限るとアルゼンチンの2勝1敗(6得点5失点)とアルゼンチンがやや優勢ですが、前述の通り前回大会のラウンド16で両国は対戦し、4-3でフランスがアルゼンチンを下してそのままフランスが優勝しています。
アルゼンチンのフランス戦過去戦績 | |
2018年6月 | ● 3-4(A) |
2009年2月 | ◯ 2-0(A) |
2007年2月 | ◯ 1-0(A) |
1986年3月 | ● 0-2(A) |
1978年6月 | ◯ 2-1(H) |
対戦成績記載ページ:https://www.transfermarkt.jp/(対象カードをクリックし詳細ページに行くと対戦成績を確認できます)
気になる体調不良選手の回復具合。フランスはメンバーを揃えられるのか
また、ここまで言及していませんでしたが、フランスにとって何より大きな不安要素は、コンディションです。チーム内でウイルス性の病気が流行り、決勝2日前の練習時点ではコマンに加えて、ヴァラン、コナテのセンターバック2人が体調不良で不在。さらに腰痛でチュアメニ、膝の問題でテオ・エルナンデスも練習不参加と、守備の要を欠く恐れが出てきました。
仮に強行出場しても、コンディションが気になります。試合全体に大きな影響が出るかもしれません。
対象者が決勝に残った得点王争いにも注目
決勝戦でメッシがゴールを挙げるオッズは2.62倍。エムバペは2.87倍です。グループステージとラウンド16以来、直近2試合でノーゴールのエムバペに比べ、メッシはコンスタントに1点ずつ挙げているので、フランスがPKを与えやすい特徴を含め、メッシのゴールは可能性が高いかもしれません。
ゴールデンブーツ(得点王)受賞者オッズ
一方、ゴールデンブーツ(得点王)の予想は、メッシが1.67倍、エムバペが2.37倍です。今は両者5得点で並んでいるので、決勝次第です。
個人的には26.00倍のジルーとアルバレスもシブいと思います。現在は両者4点なので、1点取れば同位で得点王。もっとも、メッシとエムバペがノーゴールという難しい条件が付くので、やはり可能性は薄いですが。
アルゼンチンとフランスの両エースが首位に並び、さらに両チームのFWが2番手に並ぶ、得点王争い。トロフィーの行方と共にゴールデンブーツも気になるところです。