2023-24シーズンのイングランド・プレミアリーグは、12月10日で第16節までを消化しています。今後の戦いについて、ブックメーカーから発表されているオッズを参考に、サッカーライターで「プレミアパブ」代表の内藤秀明氏に展望してもらいました。
海外ブックメーカー発表/イングランド・プレミアリーグ優勝オッズ
ウィリアムヒル社から発表されている12月14日時点のプレミアリーグの優勝オッズはこちらです。
オッズ順 | チーム名 | オッズ |
---|---|---|
1 | マンチェスター・C | 1.91倍 |
2 | リヴァプール | 3.75倍 |
3 | アーセナル | 4.33倍 |
4 | アストン・ヴィラ | 15.00倍 |
5 | トッテナム | 41.00倍 |
6 | ニューカッスル | 81.00倍 |
7 | マンチェスター・U | 101.00倍 |
8 | チェルシー | 201.00倍 |
9 | ブライトン | 501.00倍 |
10 | ブレントフォード | 1001.00倍 |
〃 | ウェストハム | 1001.00倍 |
〃 | クリスタル・パレス | 1001.00倍 |
13 | フラム | 1501.00倍 |
〃 | ウォルバーハンプトン | 1501.00倍 |
15 | エヴァートン | 2501.00倍 |
〃 | ノッティンガム・フォレスト | 2501.00倍 |
〃 | ボーンマス | 2501.00倍 |
〃 | バーンリー | 2501.00倍 |
19 | ルートン・タウン | 3001.00倍 |
〃 | シェフィールド・U | 3001.00倍 |
※オッズは2023年12月14日時点のWilliamHill公式サイトから引用。現在の優勝オッズも公式サイト(プレミアリーグ 2022/23 – 優勝)にて閲覧できます。
オッズではシティ優位も、例年よりは低めの評価。牙城が崩れつつある
今シーズンのプレミアリーグの優勝予想は、非常に難しいです。昨季までなら、秋口を過ぎた頃には、首位ではなくとも優勝するのは「なんだかんだ強いマンチェスター・C」という空気がファンの中には蔓延していました。
多少、順位を落とそうとも、それほどまでにシティの戦力が圧倒的に充実していたのです。特に昨季はハーランドが爆発したこともあり、確かにアーセナルも好調で首位につける時期もありましたが、地力がシティの方が上であることは明らかでした。
しかし今季はいよいよ、その牙城が崩れつつあります。果たして今季のシティも「なんだかんだ強いマンチェスター・シティ」なのでしょうか。
確かに現時点でのブックメーカー「ウィリアム・ヒル」の優勝オッズは、シティの優勝オッズが1.91倍で1番人気になっています。しかし例年のシティなら、前半戦の時点での優勝のオッズは1.40倍〜1.60倍程度です。ブックメーカーの視点で見ても、やや評価は低めとなっています。
シティファンならシティにベットすべし
まず今季のシティの課題として明らかなのは、ロドリのバックアッパー不在問題です。
これまでもこの問題はありましたが、2シーズン前まではアンカー本職のフェルナンジーニョがいたため、問題が大きく顕在化しませんでした。また昨季に関しては、そもそも優勝を残した最終節以外だと1試合しか欠場していない上に、いない時期はイルカイ・ギュンドアンとジョン・ストーンズの2名で不在の穴を埋めていました。
しかし今季はどうでしょうか。ギュンドアンは退団した上に、22年に獲得した守備的MFのカルビン・フィリップスがフィットする兆しも見えていません。加えてストーンズは前半戦の多くの時間を負傷離脱していたこともあり、今季どの程度計算できる戦力なのか未知数です。元々パフォーマンスにムラっ気のある選手でもあります。中盤自体はマテオ・コバチッチやマテウス・ヌネスを獲得しましたが、彼らはパスで散らすよりボールを運ぶプレーが得意なためアンカーというキャラクターではありません。
このように、昨季以上にアンカーのバックアッパーが定まっていないにも関わらず、今季はロドリが欠場する試合が増えています。ノッティンガム・フォレスト戦の一発レッドは、相手選手への首絞めが原因だったので、戦術的な理由というわけではありませんが、それを抜きにしても彼の不在リスクは増えています。
というのも昨季のロドリは1試合のあたりの平均ファール数が1.34回、平均イエローカード数は0.14枚でした。しかし今季はそれぞれ1.61回、0.44枚に増えています。つまりイエローカードの累積で出場停止になる可能性は今季の方が高いと言えます。
この原因は様々ですが、一つ明らかなのは、ロドリが昨季よりプレーエリアが高くなっており、その結果、無理にファールで止めざるを得ない場面が増えているようです。現時点でタックルでの一発レッドはありませんが、このようにファールが増えている状態だと、イエローのつもりで止めたファールも、一発レッドになる可能性が高まります。それでなくともプレミアリーグの審判は、謎なジャッジが多いですからね。
結果、今季のロドリは16試合消化時点で3試合に出場停止の状態であり、シティはこの3試合で全敗しています。現時点ではこの問題は解決しておらず、今後もロドリが欠場する度に敗戦を喫するようだと、シティとしてはコンスタントな勝利は難しくなります。
他にも3連覇によるモチベーション問題、ケヴィン・デブライネの慢性的な負傷癖が加速している件、先行きがやや不透明なFFP違反など、いくつかの問題点を抱えています。相対的に今季のシティは優勝確実と言えない状況になっています。16節が終わった時点ではなんと4位という苦しい位置につけています。
しかし、これらはあくまでもこれまでの最強シティと比べての話です。総合力で言えばシティが依然としてプレミアリーグトップクラスなのは言うまでもなく、仮にシティファンがどこかにベットするなら、「1.91倍は美味しいオッズ」と言えるかもしれません。ロドリの離脱数が減ること、年末に復帰するデブライネが後半戦はフル稼働することを祈って、大きくシティの優勝に賭けてもいいかもしれません。
ただ筆者はシティファンではないので、そろそろ他のチームにベットしてもいいかもしれないと思い始めているのは事実です。
大穴を狙うならマンチェスター・U
ではシティが優勝しないとなると、どこにベットするべきなのか。はっきり言ってヴィラ以下はかなり厳しいと言えるでしょう。もちろんヴィラがいつぞやのレスターのように5001.00倍のようなオッズなのであれば十分ベットするに値しますが、15.00倍という数字は微妙です。
可能性はありますが、プレミアリーグ優勝経験がなく、欧州大会への挑戦が久しぶりのバーミンガムのクラブが後半戦も勝ち点をコンスタントに積み重ねるという予想はしにくいです。ハードな前線守備ありきのチームなので、なおさらです。
逆にマンチェスター・Uは、チャンピオンズリーグのグループステージを4位で敗退済み、ヨーロッパローグへの移行もなく欧州大会を終え、カラバオカップも敗退済みです。元々、昨季戦った62試合は5大リーグで最も多い試合数であり、今季の前半戦が怪我人の続出やコンディション不良が発生することは明らかでした。
実際、昨季のリヴァプールも、2シーズン前に63試合戦った影響で、昨季の前半戦は絶不調でした。無理したツケは、ちゃんと翌シーズンに反映されるのです。
しかし逆を言うと、後半戦のマンチェスター・Uは劇的に復調する可能性があります。断言できるほどの自信はありませんが、101.00倍というオッズなのであれば、少額ベットしてもいいような気もします。1000円が10万円になるわけですしね。レスターほどではないにせよ、奇跡を願ってもいいオッズになっています。
リヴァプールかアーセナルか、の2択
ただ現実問題として、一番美味しい買い目はどこかというと、個人的にはアーセナルではないでしょうか。現時点ではリヴァプールの方が人気が高い状態にはなっていますが、リヴァプールの方が課題が大きいように思えます。
まず第一にワールドクラスのアンカーが不在という問題。もちろん日本代表MF遠藤航も素晴らしい選手ですが、シティのロドリや、アーセナルのデクラン・ライスと比べると、やはり見劣りしてしまいます。
またアレクシス・マカリスターは器用な選手なので、何となくうまくこなしていますが、中盤の底が本職というわけではありません。ここのポジションが手薄なのはマイナスポイントと言わざるを得ません。また現時点では冬の補強の噂は少なく、例年の動きを考えると即戦力級に多額の予算を割くとは考えにくいのが実態です。
また参戦しているヨーロッパリーグは、木曜日夜開催なので、火・水曜日開催のCLと比べると、ややリーグの日程がタイトになりがちです。それでなくとも何故かパフォーマンスが落ちがちな土曜日のランチタイムキックオフの割り振りが多いリヴァプールですから、日程面ではなおさら不利な状況です。
加えて今冬には、アフリカネーションズカップがあります。大会中エースのモハメド・サラーが離脱してしまう上に、前回の大会後は決勝で敗戦を喫して優勝を逃したエジプト代表FWは露骨に調子を落としました。大きな不確定要素です。
さらに今夏、ジョーダン・ヘンダーソン、ジェームズ・ミルナーらベテラン陣がこぞって退団し、リーダーグループがフィルジル・ファンダイク中心に変化し、厳しいルールからやや解放されるという変化があったようです。勝っている現時点では、その開放感がプラスに働いているようですが、調子を落とした時にどうなるかが未知数です。
一方のアーセナルは、良くも悪くもシティほど一人の選手に依存していませんし、不確定要素もやや少なめです。またリヴァプールよりは全ポジションに穴がありません。強いて言うのであれば、左サイドバックがやや手薄かもしれませんが、それはリヴァプールの右SBも同様です。条件はほぼイーブンに見えます。
そう考えると、やはりアンカーに関して、デクラン・ライスやトーマス・パーティーを抱えているアーセナルの方が堅いチームに見えます。事実、「昨季の方が魅力的なサッカーだった」と感じるファンもいるようですが、今季の方が「内容は悪くとも勝ちきる」サッカーが増えています。今後、さらにライスやカイ・ハヴァーツらの連携が高まれば、昨季同様の攻撃面の爆発が見られるはずです。
「絶対的なストライカーいない問題」に関しては、冬にブレントフォード所属のイングランド代表FWイヴァン・トニーを獲得するという噂もありますし、そもそもこの言説はガブリエル・ジェズスを過小評価しすぎな気もします。彼は典型的な点取り屋でこそないものの、スーパーなFWです。自信なさげな表情で損をしている気がします。
このように考えると、20年間優勝実績がないアーセナルだとしても、4.33倍にベットする価値は十分にあるように感じます。
筆者の推しはアーセナル
以上の理由により、フラットに考えるのであれば、「アーセナルの優勝予想にかけるべし」と言うのが筆者の意見です。前回の優勝、2002-03シーズンの無敗優勝からちょうど20年ぶりに優勝可能性を残しているのも、何か運命的なものを感じます。
なんにせよ、現代フットボールにはやはりアンカーが重要ですからね。ここが分厚いチームを重視したくなりますよね。