2024-25シーズンのイングランド・プレミアリーグは、第7節までを消化しています。序盤の戦いと今後の優勝争いについて、ブックメーカーから発表されているオッズを参考に、サッカーライターで「プレミアパブ」代表の内藤秀明氏に展望してもらいました。
海外ブックメーカー発表/イングランド・プレミアリーグ優勝オッズ
ウィリアムヒル社から発表されている10月9日時点のプレミアリーグ優勝オッズがこちらです。
チーム名 | 優勝オッズ |
---|---|
アーセナル | 2.50倍 |
マンチェスター・C | 2.62倍 |
リヴァプール | 4.50倍 |
チェルシー | 17.00倍 |
トッテナム | 67.00倍 |
アストンヴィラ | 81.00倍 |
マンチェスター・U | 126.00倍 |
ニューカッスル | 151.00倍 |
ブライトン | 151.00倍 |
ウェストハム | 251.00倍 |
ノッティンガム・フォレスト | 501.00倍 |
クリスタル・パレス | 501.00倍 |
ボーンマス | 501.00倍 |
ブレントフォード | 501.00倍 |
フラム | 751.00倍 |
ウォルバーハンプトン | 1001.00倍 |
エヴァートン | 1001.00倍 |
サウサンプトン | 1501.00倍 |
レスター | 1501.00倍 |
イプスウィッチ | 1501.00倍 |
※オッズは2024年10月9日時点の(プレミアリーグ 2022/23 – 優勝)より
激しい優勝争いの予感 アーセナルがシティを上回ることができるか
今季のプレミアリーグの優勝争いは、ここ数年で最も熾烈になることが予想されます。現時点での最有力候補は、マンチェスター・Cとされています。
直近だけ見ても、4連覇の実績があるのだから当然と言えば当然です。2016年にペップ・グアルディオラが監督に就任して以降でカウントしても、8年間で6回も王者に輝きました。
絶対的な強さを誇っています。しかし、ここにきてこの牙城が崩れつつあります。
シティの絶対的な牙城を崩そうとしているのは、アーセナルです。筆者も執筆時点で、どこかの優勝オッズにベットするなら、このノースロンドンの雄に賭けるでしょう。では、なぜもう20年以上もプレミアリーグで優勝できていないクラブを現在推すのでしょうか。
充実したスカッドのアーセナルは過去最強か
アーセナルが優勝すると予想する理由はいくつかありますが、まず大前提としてアーセナルは2019年にアルテタがシーズン途中に暫定監督して以降、スカッドが圧倒的に強くなりました。
スタッツサイト『トランスファーマルクト』算出の選手の市場価値の合計額では2019年当時が6億4500万ユーロ(当時約970億円)だったのが、今季は11億7000万ユーロ(約1880億円)と、およそ2倍ものスカッドになっています。
しかも人数が増えただけではなく、1人当たりの市場価値は1599万ユーロ(約25億円)だったのが、現在は5298万ユーロ(約85億円)でおよそ3.3倍も選手の質が向上しています。選手の市場価値総額で言うと、プレミアリーグの1位は僅差でシティとなっているが、1人あたりの平均でいうとアーセナルの方が上回っているのです。
アーセン・ヴェンゲルが戦力が足りないながらも「我々には既に強力なスカッドがある」と苦しくメディアに語っていた時代が懐かしいですね。現在のアーセナルには本当に強力なスカッドがあります。
そんなアーセナルが、逆風の序盤戦を5勝2分けの無敗で乗り切った点も評価に値します。
まず開幕前からわかっていた事実ですが、今年のアーセナルは序盤戦の日程が厳しかった。第2節には昨季ダブルを食らったアストンヴィラ、第4節にローカルライバルのトッテナム、そして第5節には王者マンチェスター・Cとのそれぞれアウェイゲームが控えていたのです。
加えて、第3節で攻撃の要であるマーティン・ウーデゴーアを負傷で失っただけでなく、開幕直後から最終ラインに怪我人を続出させていました。
それにも関わらず、ヴィラに2-0で勝利した後に、ノースロンドンダービーに1-0で勝利して勝ち点3をゲット。エティハドでのシティ戦では退場者を出しながらも2-2で引き分けるなど、厳しい日程で大きく勝ち点を落とさず乗り切りました。
引き分けたシティ戦とブライトン戦では、ともに退場者を出した上での勝ち点1だったことを加味すると、展開によらず勝ち点を重ねる地力の強さを感じさせます。
ポゼッションとハイプレスで主導権を握るスタイルと、割り切ったリトリートからのカウンターを狙う現実的な戦い方を高いレベルで併用する今のアーセナルは、史上最強と言っても過言ではありません。
しかもこれからノルウェー代表の司令塔のウーデゴーアをはじめ、怪我人が続々戻って来ることも考えると、現在の順位こそ3位ですが、地力は頭ひとつ抜けていると見ていいでしょう。
だからこそ、ウィリアムヒルの優勝オッズでも1番人気となっているのです。最も人気なチームにベットする精神は好まれないかもしれませんが、今のアーセナルに2.50倍のオッズは、おいしい買い目だと言えます。
ロドリの長期離脱が響くシティ
ただアーセナルが強いだけであれば、ここまで推さないのですが、シティに逆風が吹いていることも忘れてはなりません。
それがロドリの今季絶望という状況です。
EURO2024でも優勝を果たし、最優秀選手に輝いたスペイン代表MFは、ここ数年の疲労が溜まっていたこともあってか、前十字靱帯と半月板の一部を損傷してしまいました。
ペップシティが初めてプレミア優勝を成し遂げた2018年以降、このチームのビッグタイトル獲得には必ずロドリの存在がありました。クレバーな大型MFは細かい怪我こそあれど、長期離脱はなくプレーし続けてきたからです。
逆に決勝まで進出しながらタイトルを逃した2021年のチャンピオンズリーグ決勝では、なぜかペップがロドリを出場させていません。あの采配を悔やみ、疑問を投げかけるシティズンはいまだに多い印象です。リーグ戦でもロドリが短期間離脱している時期だけ勝ち点を落としたことが何度もありました。
いずれにしても、マンチェスター・シティは常勝クラブとなって以降、初めてロドリ抜きで長期間を戦うことを強いられています。確かに代役を務めるマテオ・コバチッチは、穴を埋めようと必死にゲームメイクしていますし、これまでにはなかったミドルシュートからの得点力も身につけつつあります。
しかしながら、前任者が攻守ともにワールドクラス過ぎただけに、物足りない印象が拭えません。直近17連勝中のお得意様フラムを相手に、最終的には3-2で勝利を収めたものの、相手のカウンターを止めきれず苦戦したのも、間違いなくロドリ不在の影響もあるでしょう。
冬に代役を獲得することも考えられますが、限りなく可能性は低いでしょう。レアル・ソシエダ所属MFマルティン・スビメンディ獲得の噂もあり、彼が来ればロドリの穴を埋めることができるかもしれません。ただそれも完璧ではないだろうし、そもそも地元チームへの愛着が強くこの夏の移籍も断った男が、チームのことを思うとシーズン中に出ていくとは考えにくいです。
加えてスビメンディ目線でも、シティにいくのは悩ましいところでしょう。ペップ・グアルディオラの契約が今季で終わり、来季以降の状態は不透明。加えて、来季以降は同じポジションに強大すぎるライバルも復活してきます。積極的に選ぶかというと、悩ましいところでしょう。
もちろん他の選手でシティが代役を立てる可能性はあるが、ロドリの代役というのがそもそも世界中探してもいない上に、上記の理由で大物が来る可能性は低い。攻守の要であり、唯一代えがきかない選手の負傷離脱は、シティの5連覇を阻もうとしています。
アーセナルに代役不在の選手はいるか?
ではアーセナルには、ロドリのような代役不在の選手はいないのでしょうか。
依存度の高い選手はいます。ウィリアン・サリバとガブリエウ・マガリャンイスの不動のCBコンビは出ずっぱりな状況で、欠かせない選手たちです。
ただアーセナルは、イタリア代表DFリッカルド・カラフィオーリを今夏に獲得するなど、最終ラインに関してはプレミアリーグ屈指の選手層を備えています。だからこそ今季の序盤戦にSBが多く負傷離脱しても、難なく乗り切れたのです。
マガリャンイスは対人戦が強いだけでなく、リーダーシップも発揮できる選手のため、彼がいなくなれば痛手でしょう。ただシティのロドリほど依存しているかと言われれば、そこまでではない上に、類似選手を冬に獲得する難易度もアンカーほど高くはありません。
また、シティがアーリング・ハーランドを獲得して、得点をノルウェー代表FWに頼っているのに対して、アーセナルは結局、本職の9番を獲得せずに今季をスタートさせました。
ストライカーを獲得しなかったこと自体はややマイナスですが、カイ・ハヴァーツがそれを感じさせない活躍を見せています。
このドイツ代表FWへの依存度は相対的に上がっていますが、彼が離脱した場合、本職9番の役割を他の選手に任せるよりは、やや難易度は下がるのではないでしょうか。相対的な依存度はシティほどではない印象です。レアンドロ・トロサールという器用さにかけては天下一品の選手がいる点も心強いです。
シティとの比較の観点で言うと、最もアーセナルの方が依存度が高いのは右ウイングのポジションでしょうか。
ブカヨ・サカは、今季リーグ戦で2ゴール7アシストを記録しており、攻撃面で欠かせない選手になっています。シティはハーランドを獲得して攻撃をシンプルにすることで、ウイングの戦術への適応の難易度を下げ、多くの選手がシティのウイングでのプレーにフィットしています。
対してアルテタは、ウイングへの攻守への要求が複雑かつ高い上に、サカの調子も良いこともあって、23歳のイングランド人に相当依存しています。
ただし前述の通り、前線には万能性の高いレアンドロ・トロサールがいる上に、ラヒーム・スターリングもローンで獲得しています。元シティのアタッカーがどこまで計算できるのか未知数な部分もありますが、対策をとっていることも確かです。
総合的に考えると、アーセナルはシティほど、一人の選手に依存しているとは言えないのではないでしょうか。
シティとアーセナル以外の優勝の可能性 スロット新監督で首位のリヴァプールは?
さてここまで、優勝オッズで上位に名を連ねているリヴァプールの名前を出さずに話を進めてきました。新監督アルネ・スロットは非常に優秀な指導者で、8年以上指揮をとった名将ユルゲン・クロップの退任を大きくは感じさせない、素晴らしいチームを一夏で作り上げました。
実際、現在首位に立っているのはマージーサイドのこのチームです。
しかしながら現実的に考えると、今季、優勝する可能性はそこまで高くないのではないでしょうか。
オランダ人監督は、晩年のクロップサッカー以上に激しいハイプレスをチームに強いており、これが年間通して稼働できるのか未知数です。また10月頃からローテーションする傾向が強まってきたものの、前任者よりスタメンを固定する傾向があるため、サッカーの種類を考えると、年間走り切れるかどうか未知数です。
加えて、前任者よりもポゼッションよりのサッカーに切り替えたこともあり、彼好みの選手がサブに少ない点も、長いシーズンを戦う上で不利に働きます。リヴァプールファンなら、応援も兼ねてベットするのは悪くないでしょうが、オッズも4.50倍と確実性が低いにも関わらずそれなりに人気のため、推せる選択肢ではないかもしれません。
マレスカ新監督体制のチェルシーのオッズは魅力的
他にも新監督組で言うとチェルシーは、想像以上の好結果を残しています。
エンツォ・マレスカは非常に優秀かつ柔軟な指導者で、ポジション偏在のバランスがやや悪いスカッドをうまく操って、4位にチームを導いています。
本職ストライカーの不在は、アーセナルと同様に戦術でほぼ帳消ししているものの、バックラインの層が薄く、CL出場は十分圏内ですが、優勝はやや想像しにくいかもしれません。
また、昨季よりは大幅に改善されていますが、第7節のノッティンガム・フォレスト戦ではリトリート型のチームを崩す点でまだ練度に課題を残すことを再確認させられました。
ただ17.00倍というオッズは魅力的ですね。冬にCBを補強する可能性に賭けて、少額ベットするのはありかもしれません。
トッテナムとユナイテッドは厳しい状況
トッテナムとユナイテッドは、ほぼノーチャンスと言っていいかもしれません。
アンジェ・ポステコグルーは哲学が強い魅力的な監督ですが、前がかりすぎる上に柔軟性がないスタイルでは、優勝は難しいのではないでしょうか。またバックラインの層の薄さもマイナスポイントです。
マンチェスター・ユナイテッドは、論外です。ユナイテッドファンの筆者としては、書きながら複雑な心情ですが、そう言わざるをえません。14位という順位が現状を示しています。スカッドは優勝可能性を感じさせるほどに揃いつつありますが、チームとしての完成度が低すぎます。
監督人事次第では復活する可能性もありますが、今季優勝するには既に大きなビハインドを背負いすぎました。
以上が今季の優勝争いに関する見解です。当てたいなら、大穴思考でもチェルシーまででしょう。
注目はブライトンとノッティンガム・フォレスト
最後に個々の試合を予想する上で、ダークホースになる可能性のあるチームを紹介したいと思います。
一つはブライトンです。31歳でプレミアリーグ最年少監督のファビアン・ヒュルツェラーは、初期クロップのような情熱的なサッカーをチームに落とし込んでいます。
そのエネルギーが大きく反転してチェルシーに2-4で完敗したこともありましたが、あの試合もファン・ヘッケが負傷離脱していなければ、どうなっていたかわかりません。おもしろい存在です。
もう一つはノッティンガム・フォレストです。
既にアンフィールドでリヴァプールに勝っただけでなく、スタンフォード・ブリッジで好調チェルシーに引き分けるなど、ビッグ6から勝ち点を奪っています。
堅守速攻は非常に手堅く、上位陣からすると不気味な存在です。加えてBIG6目線で言うと、過密日程のタイミングで当たるマッチメイクが多いのも嫌なのではないでしょうか。
対BIG6のフォレストは、穴思考なら注目に値します。
いずれにしても今季も魅力的な監督、選手が結集しているプレミアリーグは魅力満点です。試合を予想しながら、一喜一憂していきたいところです。