4月に本戦の組み合わせ抽選が行われ、11月に開催されるサッカーFIFAワールドカップ・カタール2022に向けて盛り上がりが増してきています。
組み合わせ決定に合わせてブックメーカーからも優勝オッズが発表されており、そのオッズをもとに河治良幸氏に大会展望をしてもらいました。
編集:永田淳(ブクサカ編集部)
海外ブックメーカー発表!カタール・ワールドカップの優勝オッズ
2022年11月21日に開幕するカタールW杯は32カ国中29ヶ国の出場が決まり、抽選会でグループリーグの組分けも決まりました。6月にある3つのプレーオフで32ヶ国が出そろいますが、現時点でも優勝オッズからおおよその下馬評が見えてきています。
※引用オッズはウィリアムヒル社発表のもので、優勝オッズは日本時間2022年4月20日時点のものをご紹介しています。
最新版オッズ ⇒ ワールドカップ2022 – トーナメント勝者|WilliamHill
順位 | 国名 | 優勝オッズ |
1 | ブラジル | 5.50倍 |
2 | フランス | 6.50倍 |
3 | イングランド | 7.00倍 |
4 | スペイン | 8.50倍 |
5 | アルゼンチン | 11.00倍 |
ドイツ | 11.00倍 | |
7 | ベルギー | 13.00倍 |
7 | ポルトガル | 13.00倍 |
9 | オランダ | 15.00倍 |
10 | デンマーク | 29.00倍 |
11 | クロアチア | 34.00倍 |
12 | ウルグアイ | 51.00倍 |
13 | ポーランド | 67.00倍 |
セネガル | 67.00倍 | |
15 | アメリカ | 81.00倍 |
スイス | 81.00倍 | |
セルビア | 81.00倍 | |
18 | メキシコ | 101.00倍 |
19 | エクアドル | 151.00倍 |
ガーナ | 151.00倍 | |
21 | ウェールズ ※ | 201.00倍 |
モロッコ | 201.00倍 | |
23 | カメルーン | 251.00倍 |
日本 | 251.00倍 | |
ペルー ※ | 251.00倍 | |
ウクライナ ※ | 251.00倍 | |
カナダ | 251.00倍 | |
カタール | 251.00倍 | |
29 | チュニジア | 301.00倍 |
30 | 韓国 | 401.00倍 |
スコットランド ※ | 401.00倍 | |
オーストラリア ※ | 401.00倍 | |
33 | サウジアラビア | 501.00倍 |
イラン | 501.00倍 | |
35 | ニュージーランド ※ | 1001.00倍 |
36 | コスタリカ ※ | 1501.00倍 |
※の国は出場未決定。下記組み合わせの勝者がW杯本大会に出場
- ペルー×(オーストラリア×UAEの勝者)
- コスタリカ×ニュージーランド
- ウェールズ×(ウクライナ×スコットランド)
指揮官の変わらないブラジル・フランス中心の戦い
大手ブックメーカーであるウィリアムヒルの最新オッズによると、1位がブラジルの5.50倍で、2位に6.50倍のフランス、3位に7.00倍のイングランド、4位に8.50倍のスペインが一桁台で続きます。
さらにアルゼンチン、ドイツが11.0倍で並び、ベルギー、ポルトガル、15.00倍のオランダ、ここまでの9ヶ国がいわゆる”優勝候補”と考えられます。
1位のブラジルは過去5回の優勝を誇りますが、南米予選を圧倒的な結果と内容で首位通過して、さらに評価を高めました。
リオ五輪、東京五輪と2大会のオリンピック金メダリストであり、それらの大会を経験した選手も現在の”セレソン”メンバーに多く名前を連ねている。チッチ監督が2大会続けて率いることも強みになりそうです。
それでも5.50倍という数字で分かる通り、絶対的な本命という訳ではありません。やはり前回王者のフランスも数字の通り、ブラジルとほぼ同等のポテンシャルを備えていることは間違いありません。
EURO2020で惨敗、フランスの2連覇の可能性は
フランスも前回から引き続きデシャン監督が率いますが、大会で強みにも弱みにもなりうるのが、あまりにもワールドクラスが揃ったアタッカー陣です。
前回大会で大ブレイクしたキリアン・エムバペ(パリSG)をはじめアントワーヌ・グリエーズマン(バルセロナ)、カリム・ベンゼマ(レアル・マドリード)など、他国が羨むスカッドですが、昨夏の欧州選手権ではうまく機能せず、またデシャン監督の選手交代もスムーズさを欠いていました。
それが欧州予選では改善されたようにも見えましたが、短期決戦のワールドカップ本番で、吉と出るかは不明です。
ただ、中盤、最終ラインとタレントが充実しており、前回の経験を考えてもブラジルに匹敵するか、見方によっては上回ると考えられます。
過大評価のイングランド、過小評価のドイツ・ベルギーは狙い目か
この2ヶ国に比べるとイングランドは自国開催の1966年大会が唯一の優勝であり、過去数大会と比べても圧倒的に充実した陣容とも言えません。筆者の見解としては7.00倍は実際より高いのではないかと考えています。
逆に、上記の9ヶ国の中でやや軽視されているのがドイツとベルギーです。
2014年ブラジル大会の王者であるドイツが評価を下げた理由ははっきりしています。15年間に渡ったヨアヒム・レーブ前監督のもとでグループリーグ敗退した前回大会、さらにラウンド16でイングランドに惨敗を喫した昨年の欧州選手権など、成績が急落してしまったためです。
しかし、母国のバイエルン・ミュンヘンで2019−20シーズンのチャンピオンズリーグ王者に輝いたハンス=ディーター・フリック監督が引き継いで以降、攻守のバランスが改善されて、得点力もアップしています。
西ドイツ時代を含めて、ブラジルに次ぐ4度の優勝を経験していることも踏まえて、イングランドと同じかそれ以上ぐらいの位置付けが妥当ではないでしょうか。
オッズを独自でつけるなら…河治の視点
仮に筆者の独断で付けるならば、
- ドイツ:8.00倍(実際は11.00倍)
- スペイン:8.50倍(実際は8.50倍)
- イングランド:10.00倍(実際は7.00倍)
とします。
そして前回3位のベルギーはブックメーカーだと13.00倍となっていますが、チームとしての成長度合いを踏まえると、リオネル・メッシ(パリSG)を擁するアルゼンチンと同じ11.00倍ぐらいでもおかしくないと考えられます。
カタールW杯のグループリーグ組み合わせと展望
カタールワールドカップのグループリーグ抽選の結果がこちら。
グループA | グループB |
カタール | イングランド |
エクアドル | イラン |
セネガル | アメリカ |
オランダ | 欧州プレーオフ勝者 (ウェールズ、スコットランド、ウクライナ) |
グループC | グループD |
アルゼンチン | フランス |
サウジアラビア | 大陸間PO勝者 (オーストラリア、UAE、ペルー) |
メキシコ | デンマーク |
ポーランド | チュニジア |
グループE | グループF |
スペイン | ベルギー |
大陸間PO勝者 (コスタリカ、ニュージーランド) | カナダ |
ドイツ | モロッコ |
日本 | クロアチア |
グループG | グループH |
ブラジル | ポルトガル |
セルビア | ガーナ |
スイス | ウルグアイ |
カメルーン | 韓国 |
優勝オッズ上位の優勝候補9ヶ国のうち、7ヶ国は開催国のカタールをのぞくFIFAランキングに従い、抽選会のポット1に割り振られた国々です。
残る2ヶ国はドイツとオランダ。それだけに、抽選会においても、この2ヶ国が入った組が厳しいグループになると予想されていましたが、実際は開催国カタールがポット1だったA組にオランダが入ったことでバランスが取れました。
この優勝オッズをベースに8つのグループを見ても、いわゆる”死の組”は見当たりません。
これだけバランスが取れた理由は、ほぼFIFAの最新ランキング通りにポット分けがされたこともありますが、本来なら優勝候補の一角になりうるイタリアや前回ベスト8のスウェーデンが欧州予選で敗退したり、アフリカの強豪国であるコートジボワールやナイジェリア、さらに南米上位の実力国として知られるコロンビア、チリの予選敗退で、全体的に競争力がややなだらかになった事情もあります。
ドイツ・スペインのE組…日本はあくまでもチャレンジャーという立場
注目だったドイツはE組でスペインと同居することになり、上記の優勝候補から唯一、2ヶ国が同居する組となりました。そこに日本、そしてオセアニア王者ニュージーランドと北中米カリブ海4位のコスタリカ によるプレーオフの勝者が組み込まれることになりました。
2010年W杯の王者スペインと2014年W杯王者ドイツが相手になるということで、日本やコスタリカ 、ニュージーランドからすれば非常に厳しい組になりますが、
- 251.00倍の日本
- 1001.00倍のニュージーランド
- 1501.00倍のコスタリカ
というオッズを考えても”死の組”と呼ぶほどのグループではなく、前回ベスト16 の日本も”2強”に挑むチャレンジャーの立場に過ぎません。
“死の組”はスイス・セルビア・カメルーンがブラジルに挑むG組
強いて”あげるならば、ブラジルのG組が最も”死の組”に近いと言えるかもしれません。
一番人気のブラジルを筆頭に、スイスとセルビアが全体の15位となる81.00倍で並んでいます。もうひとつのカメルーンは日本と同じ251.00倍ですが、タレント力を考えるとやや軽視されているようにも感じられます。
ブラジルが首位突破を果たす可能性は高いですが、決して楽観視できない組であり、欧州主要リーグの終了から約10日後に迎える最初のセルビア戦でつまずくと、守備の堅いスイス、個性的なタレントを揃えるカメルーンとの対戦も苦しくなってきます。
ちなみにブラジル、スイス、セルビアは前回大会でも同居していました。
2大会続けて3つの国が同じ組に入ることはかなりレアケースでしょう。残るひとつはコスタリカでしたが、今回はカメルーン となっています。
前回ブラジルは初戦でスイスに苦しみながらも1-1で引き分けて、コスタリカ 、セルビア相手に2連勝して首位通過しましたが、過去の大会でも初戦はだいたい苦しんでおり、準備期間の短さを考えると今回も要注意でしょう。
ポルトガル本命のH組も混戦必至
混戦の可能性が高いのは、ポルトガル、ウルグアイ、ガーナ、韓国が同居するH組です。
優勝オッズ13.00倍のポルトガルが首位通過の本命ですが、絶対的とは言えません。全体の12位に相当する51.00倍のウルグアイは近年やや成績を落としていましたが、15年間のタバレス体制が終焉し、気鋭の青年指揮官であるディエゴ・アロンソ監督のもとで建て直しを図っています。
エディソン・カバーニ(マンチェスター・ユナイテッド)やルイス・スアレス(アトレティコ ・マドリード)など、主力の高齢化は気になりますが、同じくエースのクリスティアーノ・ロナウド(ユヴェントス)が37歳となったポルトガルとチーム力の差は大きく変わらないと見られます。
151.00倍のガーナはアフリカ勢では組織力が高く、トーマス・パルティ(アトレティコ ・マドリード)のような気鋭のワールドクラスもいます。ソン・フンミン(トッテナム)を擁する韓国は401.00倍ですが、前回ドイツを破った実績を忘れるべきではありません。
成長著しい米国がイングランドに挑むB組。アズムン擁するイランにもチャンス?
イングランドが本命のB組も波乱含みです。
優勝オッズ81.00倍のアメリカは北米リーグのMLSの成長に加えて、クリスチャン・プリシッチ(チェルシー)、ジョヴァンニ・レイナ(ドルトムント)、ティモシー・ウェア(リール)、タイラー・アダムス(ライプツィヒ)など欧州の強豪リーグで成長中のヤングタレントが多く、勢いに乗ると大躍進もあり得る注目国です。
イングランドの初戦の相手となるイランは501.00倍というオッズが付いていますが、カタール開催であることも考えるとこれは不当なほど低い。前回大会はスペインに大善戦の末に0-1で敗れ、ポルトガルには1-1で引き分けました。
ドイツのレバークーゼン加入が決まったサルダル・アズムンなど、強豪国からゴールを狙えるアタッカーもおり、この評価は理解に苦しみます。何れにしてもイングランドは要注意すべきでしょう。
もうひとつの国がウェールズになるのかスコットランドになるのかで、この組の下馬評は多少なりとも変わってくるかもしれません。
ウェールズは201.00倍というオッズが示す通り、2016年の欧州選手権をピークとして下降線にあるのは事実です。これはギャレス・ベイル(レアル・マドリード)を象徴とする”黄金世代”が30代になり、なかなか若いタレントが育ってきていない実情もありますが、それでも対戦相手にとって危険なチームであることに変わりはありません。
優勝オッズ401.00倍のスコットランドが勝ち上がった場合は、ウェールズよりもアウトサイダーの色合いは強くなります。ただし、政治的には同国である因縁を考えても、イングランドにとっては通常の相手よりも注目度が高くなることを含めて、1試合のストレスがかかる試合になるでしょう。
そうなると試合の結果がどうなるにしても、イングランドにグループリーグの時点でかかる負荷が大きくなるかもしれません。
ダークホース候補はデンマーク
優勝のダークホースという視点では、昨年の欧州選手権でベスト4に躍進したデンマーク、前回W杯準優勝のクロアチアの2ヶ国が挙げられます。
29.00倍のデンマークはD組でフランスと同居しますが、残る対戦国が301.00倍のチュニジア、そして251.00倍のペルーか401.00倍のオーストラリアであり、かなり恵まれたことは間違いありません。
もちろんW杯に楽なグループなどありませんが、チュニジア戦から始まり、2試合目がフランスという順番も悪くありません。仮に2位で突破した場合、ラウンド16の相手がC組1位となり、順当であればメッシ擁するコパ・アメリカ王者のアルゼンチンとなります。
ただ、C組は101.00倍のメキシコもアルゼンチンと好勝負することが多く、67.00倍のポーランドもエースのロベルト・レバンドフスキ(バイエルン・ミュンヘン)が爆発的な活躍を見せれば首位突破の可能性も十分にあるので、現時点では1位と2位のどちらがベターかは分かりません。
少なくともデンマークが決勝トーナメントに勝ち進む期待は高く、勢い次第でさらに先も望めるポテンシャルはあります。
もう一つのダークホース候補、クロアチア
前回準優勝のクロアチアが全体の11位である34.00倍となっているのは、主力メンバーの構成的に4年前をひとつのピークと見ているからでしょう。
確かに司令塔のルカ・モドリッチは現在36歳で、大会の時には37歳になります。その他にも33歳のイヴァン・ペリシッチ(インテル・ミラノ)など、いわゆるベテラン選手が多く、スタジアムの冷却システムがしっかりしているとはいえ、オフザピッチを含めて暑いカタールでの短期決戦は体力的に厳しいものになるでしょう。
もっとも97年生まれのMFニコラ・ヴラシッチ(ウェスト・ハム)や20歳のDFヨシュコ・バルディオル(ライプツィヒ)など伸び盛りの選手たちもいるので、ここから半年間でズラトコ・ダリッチ監督がベテランのコンディションと若手の成長をいかに見極めて、融合させ、11月のベストメンバーを組み上げるかが躍進の鍵になりそうです。
クロアチアのF組も優勝候補のベルギーを筆頭に、北中米カリブ海の予選で1位のカナダ(優勝オッズは251.00倍)、201.00倍のモロッコと決して簡単なグループではありませんが、うまく突破していけば、前回の経験が生きてくるはずです。
このF組は、もし日本が優勝候補のスペイン、ドイツと同居するE組を突破した場合にラウンド16で大目標のベスト8をかけて対戦する組ということで非常に注目ではありますが、森保一監督が率いる日本代表としてはそこのスカウティングは分析スタッフに一任して、過去の大会に例を見ない難解なミッションとなるグループリーグに集中していく必要があるでしょう。