2023-24シーズンのスペイン・ラ・リーガは、第10節までを終えてレアル・マドリードが首位に立っています。今季のこれまでと今後の優勝争いについて、サッカージャーナリストの小澤一郎氏(@ichiroozawa)に話を聞きました。
海外ブックメーカー発表/ラ・リーガ優勝オッズ
イギリス大手スポーツブックメーカー、ウィリアムヒル社から発表されているラ・リーガの優勝オッズがこちらです。
オッズ順 | チーム名 | 優勝オッズ |
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1 | レアル・マドリード | 1.80倍 |
2 | バルセロナ | 2.37倍 |
3 | アトレティコ・マドリード | 7.00倍 |
4 | ジローナ | 67.00倍 |
5 | レアル・ソシエダ | 126.00倍 |
6 | アスレティック・ビルバオ | 151.00倍 |
7 | バレンシア | 201.00倍 |
8 | ビジャレアル | 301.00倍 |
9 | ラージョ・バジェカーノ | 501.00倍 |
セビージャ | 501.00倍 | |
ベティス | 501.00倍 | |
オサスナ | 501.00倍 | |
13 | セルタ | 751.00倍 |
14 | ヘタフェ | 1001.00倍 |
マジョルカ | 1001.00倍 | |
カディス | 1001.00倍 | |
17 | アラベス | 1501.00倍 |
18 | アルメリア | 2001.00倍 |
19 | グラナダ | 2501.00倍 |
20 | ラス・パルマス | 2501.00倍 |
※オッズは2023年10月27日時点ののWilliamHill公式サイト(リーガ・エスパニョーラ – 優勝 2022/23)から引用
育成のスペインらしい若手の台頭が目立つシーズンは3強での優勝争い
開幕前の夏のラ・リーガは欧州5大リーグの中で最も移籍金の総額が低いリーグとなり、ビッグネームの獲得以上に流出(国外移籍)が目立つ移籍市場でした。それゆえに、リーグとしてのレベルダウンの心配もあった23-23シーズンでしたが、開幕から約2ヶ月が経過してそれは全くの杞憂に終わっています。
今季のラ・リーガの序盤戦を盛り上げているのが、育成大国スペインの真骨頂たる若手選手の台頭(急成長)です。
それを代表するのが、ディフェンディングチャンピオンのバルセロナ。昨季終盤にすでにトップチームデビューを飾っていた16歳のラミン・ヤマルは、デンベレ(PSG)の電撃移籍、ラフィーニャの負傷に伴い、あっという間に右ウイングの定位置を確保。9月にはスペインA代表にも招集されるなど、驚くほどのスピードで一気にスターダムに登りつめています。
昨季は終盤戦でCLとリーグ戦の両立ができずに息切れをしてバルサの独走と優勝を許したレアル・マドリードも、生え抜きの若手選手ではありませんが、目玉補強のベリンガムを中心に若手が主軸となり世代交代を推し進めています。今回はバルセロナとレアル・マドリードの2強が軸となる今季のラ・リーガの優勝争いを占いたいと思います。
10月27日時点の優勝オッズの通り、今季も基本的には2強による優勝争いが繰り広げられることになるのは間違いありませんが、個人的には7.00倍のアトレティコ・マドリードを含めた三つ巴の優勝レースになると予想しています。
連覇狙うバルセロナは「ダブル・ジョアン」加入で攻撃に迫力 気になる選手層がポイントに
第10節終了時の順位 | 3位(勝点24) |
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優勝オッズ | 2.37倍(2番手) |
まずは連覇を狙うバルセロナから。依然として資金難に苦しみ大きな買い物ができない中で夏の編成を強いられたものの、「バルサ」ブランドでマンチェスター・シティからギュンドアン、アスレティック・ビルバオからイニゴ・マルティネスをフリートランスファーで獲得することに成功しました。
退団したブスケツの後釜にはラ・マシア育ちのロメウがジローナから加わり、そのロメウの移籍金340万ユーロしか使えなかった夏にしては、バランスの良いスカッドが編成できました。
しかし、8月末にはデンベレがPSGへと電撃移籍。右サイドに大きな穴が空いたかに見えましたが、前述の通りL.ヤマルの大ブレイクで目処は立ちました。
移籍市場最終日にはポルトガル代表の「ダブル・ジョアン」ことジョアン・フェリックスをアトレティコ・マドリードから、ジョアン・カンセロをマンチェスター・シティからそれぞれローンでサプライズ加入することになりました。
開幕からのバルサの試合内容にはまだ波があるものの、アタッキングサードの迫力は確実に増しています。
戦術的な面では、チャビ監督が昨季よりも戦い方のライン、ブロックを上げる意欲的なトライをしています。
昨季は4バックのうち左SB(バルデ、アルバ)のみが攻撃参加をして、右SBにコンバートされていたクンデは実質CBとして攻撃時も最終ラインに残る戦術を貫いていましたが、今季は右SBにカンセロが入ることで、ビルドアップ時に両SBを上げる可変システムを採用。
当然、保持から前進の局面でボールロストすれば、最終ラインはCB2枚しか残っていないため失点のリスクは増し、実際に今季は序盤から失点が多くなってしまっています。
ただそれはあくまでメリットとデメリットのトレードオフであり、攻撃時には5トップのようなシステムに可変することが可能になっています。
昨季のバルサの攻撃は配置で押し込みながら効果的にニアゾーン(ポケット)侵入していくような、いわゆるポジショナル・アタックは見られず、引いた相手を崩す手段はデンベレやラフィーニャの個人突破か、アーリークロスに対するレヴァンドフスキのパワーと高さ頼り、つまり個の能力頼りの面が否めませんでした。
しかし、今季は厚みある攻撃はもちろんのこと、相手のハイプレスに対するプレス回避も中央のパス交換で生み出すことができています。
そのキーマンとして君臨しているのがフレンキー・デ・ヨングです。昨季から相手のブスケツ封じへの対抗策として、ビルドアップ時には低い位置で時にDFライン付近まで下がってボールを受け取り、そこから推進力を生かしたドリブルで個でのプレス回避能力を披露していましたが、今季開幕からのF.デ・ヨングはまさに神出鬼没のマルチ&フリーロールで4局面全てにおいて中心となる圧巻のパフォーマンスを見せています。
また、右SBのカンセロが偽SB戦術でボランチの位置に入ってくることで、ギュンドアンやガビのポジションを高く保つこともできるようになっており、サイドからコンビネーションで突破する攻撃を作れています。
左ウイングで使われているJ.フェリックスも見事な活躍で、ベストな11人がコンディションの良い状態であれば、国内連覇はもちろん、欧州、CLでの捲土重来も狙える陣容となっていると言えるでしょう。
バルサにとって唯一の不安要素は、ビッグクラブにしては選手層が薄いところです。
今季はL.ヤマル以外にもフェルミン・ロペス、マルク・ギウといった若手の台頭とデビューが続いていますが、10月の代表ウィーク前に
- F.デ・ヨング
- レヴァンドフスキ
- クンデ
といった主力が相次いで故障し、シーズン序盤から戦列を離れているペドリらも含めてレギュラークラスが6,7選手不在の試合もありました。
そうなると流石にフットボールの質が低下してしまうため、今季のバルサはどれだけ主力選手の怪我人を少なくするかも、連覇を目指す上ではキーポイントとなるでしょう。
「ベリンガム・システム」で首位走る白い巨人
第10節終了時の順位 | 1位(勝点25) |
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優勝オッズ | 1.80倍(1番手) |
続いては、優勝オッズと序盤の順位ではバルセロナよりも上の1位にいるレアル・マドリードについて。
今季は何と言ってもベンゼマの退団とベリンガムの加入によって、アンチェロッティ監督が4-3-3からベリンガムをトップ下に置く中盤ダイヤモンドの4-4-2にシステムと戦術を変更したことが最大のトピックスです。
「ベリンガム・システム」と呼んでいい今季のマドリーの序盤は、そのベリンガムがベンゼマの抜けた決定力の穴まで埋める形で毎試合ゴールを決める大活躍を見せ、好調を維持しています。
開幕からの中盤4枚もチュアメニ、カマヴィンガ、バルベルデ、ベリンガムといずれも25歳以下の若手が起用され、プレスの強度が格段に上がっています。
もちろん、クロース、モドリッチの大ベテラン2選手もアンチェロッティ監督は重要な戦力とみなしており、特に引いた相手を崩す展開では彼らの経験と能力をうまく活用しています。
前線も2トップシステムになったことで、昨季までウイングで出場していたヴィニシウスとロドリゴがFW起用されることになりました。
開幕当初は狭い中央で相手を背負って受けるFWのプレーへの適応に時間がかかりそうな気配も見えましたが、試合を重ねるにつれ、サイドに流れて起点を作る動きやサイドからの彼ららしい突破も披露するようになっており、ピッチ上でのカスタマイズはうまくいっています。
純粋な9番タイプのホセルもベンゼマの亡霊に苦しむかと思いきや、開幕からコンスタントに得点を決めており、異なるタイプのFWとして古巣のマドリーでフィットしそうです。
アンチェロッティ監督のマネージメント力と戦術によって、“ポスト・ベンゼマ”シーズンの今季もうまくスタートしてはいますが、やはり守備の要に長期離脱者が出ている点は今後大きく影響してくるでしょう。
開幕時期にGKクルトワ、CBミリトンの二人が膝の前十字靭帯損傷の大怪我でシーズン絶望となっており、GKにはチェルシーからケパをローンで獲得しましたが、CBの補充はありませんでした。
過密日程が続く今季のカレンダーからして、やはりアラバに筋肉系の怪我が出てきており、ナチョも複数試合の出場停止になったことで9節オサスナ戦では急遽ボランチのチュアメニをCBにコンバート起用することになりました。
戦術的に中盤ダイヤモンドの4-4-2システムでは、非保持ハイプレスをかける際、相手のサイドバックやウイングバックへのプレスがかけにくくなります。
システム上の不具合がどうしても起こりやすいデメリットの解決策として、ここでもアンチェロッティ監督はベリンガムの走力を活用するアイディアを示しています。
開幕当初はベリンガムがトップ下でそのまま相手のボランチ(ピボーテ)の潰し役を担っていましたが、CLの試合も含めて開幕から10試合あたりで、ベリンガムが守備時に左サイドハーフに入るフラット4-4-2への可変システムを採用しています。
それによってハイプレスはかけられなくなっていますが、中盤ミドルサード以降の守備の安定感が出てきており、攻撃面でもボール奪取後のカウンターのスペースも生まれるような戦い方へと変化、進化しています。
ラ・リーガの優勝を占う意味では、10月28日に行われるエル・クラシコ(11節 バルセロナ対レアル・マドリード)が単なる1試合以上の価値を持つ6ポイントゲームになります。
特にホームのバルセロナに怪我人が多く、レヴァンドフスキを筆頭にどの程度主力の怪我人が間に合うかがポイントにはなりますが、前半戦最大の山場であり、世界が注目する大一番はやはり見逃せません。
ブクサカ編集部 注
シメオネ体制のアトレティコが3番手
第10節終了時の順位 | 4位(勝点22) |
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優勝オッズ | 7.00倍(3番手) |
最後に、リーガの2強に食い込む存在として序盤からこれまた好調を維持するアトレティコ・マドリードについても触れておきたいと思います。
ラ・リーガ全体のトレンド同様、夏の大型補強はなく、開幕後の9月にカラスコがサウジアラビアへと移籍したのは痛かったですが、戦力とフットボールの質は維持できています。
昨季もカタールW杯以降の後半戦に見事なサッカーを披露し、シメオネ監督のイメージを覆すような高い配置のポジショナル・アタックも浸透していたアトレティコ。今季も5-3-2のシステムをベースに柔軟な戦い方を繰り広げています。
過密日程ゆえに攻守にアグレッシブなサッカーは毎試合見ることができませんが、グリーズマンを中心としたロングカウンターの迫力はリーガ随一です。
夏にセリエAへの移籍の噂が絶えなかったモラタも、エースとして絶好調でスペイン代表でも完全なるエースの座をつかみ心身ともに充実のシーズンを迎えています。
また、攻守の中心としてピボーテでプレーするコケも、開幕戦で負傷したもののアベレージの高いパフォーマンスを継続中。
シメオネ監督は開幕前、コケのポジションに守備的MFの補強をリクエストしていましたが、経済的問題で補強が実現しなかったことが逆にプラスに働いています。
実際、コケの代役としてカンテラ出身のパブロ・バリオスが台頭。ここ数年、戦力となりきれなかったサウールも完全復活と呼べる活躍を見せています。
元々、選手層の厚みではバルサ、マドリーの2強とも引けを取らないアトレティコだけに、取りこぼすことなく勝ち点5程度の差で2強を追いかけることができれば、後半戦での巻き返し、優勝の可能性は十分にあるでしょう。
そして、アトレティコも含めた3強による優勝争いとなることで、今季のラ・リーガのおもしろさ、リーグとしての魅力が増すことは間違いありません。